言われなければ気づかないUNKNOWN KYOTOのリノベーションの秘密
2020年7月3日こんにちは、八清の落海(オチウミ)です。
私からは久々の投稿になります。
さて以前(2019/9/6)にこのブログで「カフェー建築の、その前のかけら」という記事を書きました。内容は、北棟(下記写真右側)2階の外観で使われている手すりが、実は元々南棟(下記写真左側)2階の三角屋根の裏に眠っていたものを”生け捕りし、転用”したものであるというものでした。
改修中に見つけた残すべきものを何とか別の形で活かせないか、という現場担当の執念とでも言うべきアイデアだったんですが、そんなの言われなければまず気づくことはありませんよね?でも一度そのストーリーを知るとそこに深みが生まれ、何だかより愛着の湧くものに見えてくるかと思いませんか?実はUNKNOWN KYOTOにはこれ以外にも”生け捕りし、転用”したものがいくつかあるんです。今回はそれをこっそりと、でも丁寧にご紹介したいと思いますので、最後までお付き合いください!
その1.食堂カウンターの秘密
気付いた方もいらっしゃるかと思いますが、コの字型の食堂カウンター、実はよく見ると古材と新材が混在しているんです。下の写真でカウンター角の明るい部分が新材で、濃い部分は古材。これにはちゃんとストーリーがあるんです。
一体この古材はどこから”生け捕り”したものかお分かりでしょうか。その答えは意外にもなんと北棟2階の廊下で使われていた床材なんです。足で踏んでいた床材を、食事を食べるカウンターに転用するなんていう発想はなかなか生まれませんよね?床材というのはもっと幅が狭いのが普通ですが、この建物で使われていた床材は、見たこと無いくらいに幅広だったんです。このずっしりと重厚感ある床材を最初に見たとき、これはどこかで活かさねば!と半ば強迫観念に駆られました。その時はまだどこでどのように使うかは決まっていませんでしたが(笑)
改修初期の頃は、1階店舗の改修はテナント任せにする計画でしたが、プロジェクトが進んでいく段階でこちら側で作ることになり、であれば人の顔が見えるよう、中心にコの字型カウンターを作りたい!ということになりました。つまりカウンターが非常に重要な役割を担うことになるわけです。
そこで設計士である「expo」の山根さんに相談したところ、ぜひとも例の幅広床材をここに持ってこよう!となり、早速家具職人「いえのぐ」の先崎さんと現場で収まりの打ち合わせをすることに。状態の良かった幅広床材は2枚。けど作りたいカウンターの方が長いため、足りないところは新材で継ごうということに。この床材、なかなかの曲者で厚みが一様ではありません。そんな中無理を言って先崎さんに作ってもらったのが今のカウンターなんです。次に訪れた際にはぜひこの汗と涙の結晶を愛でてあげて下さい(笑)
その2.立呑みカウンターの1本脚
次は、同じく食堂にある立呑みカウンターの一本脚についてのお話。
壁から飛び出たカウンターに、セクシーな装飾の施された味のある脚が1本。ビールやワインがとても良く似合いそうです。この脚、UNKNOWN KYOTOの建物内のどこかで見たことありませんか?そう、現在は南棟1階のエントランスホールにあるトイレ壁面にその痕跡が残っています。
昭和時代に階段の手摺などで流行った洋風の柱状の格子。改修の際に壁の一部を撤去することになったのですが、このレトロな柱たちに「僕たちを見捨てないで!」と言われてるような気がしてならなかったのです。そこで何に使うか決まらないままひとまず生け捕りしておいて、使えそうなところがあれば使おう、ということに。
立呑みカウンターのデザインで悩んでいたとき、もしかしてあの柱がカウンターの脚に使えるのでは?と、あの生け捕りした柱たちのことが私の頭をよぎったんです。寸法を測ってみると、なんとジャスト立呑みサイズ!運命の出会いとでもいいましょうか。そこで先程と同じメンバー、expoの山根さんといえのぐの先崎さんに構造や収まりなどを考えて頂き、出来上がったのが今の立呑みカウンターというわけです。蹴っても動かないように脚はボルトで固定されています。
その3.お茶目な吊戸棚
南棟の改装前、台所の壁には可愛らしい細工の施された吊戸棚が壁にかかっていました。始めは模様かと思ったら、実はこれ、しっかりと穴が空けられているのです。そのあまりにも繊細で丁寧な職人技術に感心し、何とかこやつを活かしてあげたい、そう思うのに時間はかかりませんでした。とは言っても使うかどうかはひとまず未定。大工さんにはどこかで使うかも知れないから生け捕りしておくように、と得意の”問題の先延ばし”をお願いしました(笑)
改装工事が進むにつれ、壁にかけてあった吊戸棚は外され、隅っこに置かれることに。ついつい他の工事が優先され、吊戸棚ので出番はなかなかありません。かなり長いこと放置されたせいか、おが屑やホコリをかぶっており、しばらくその存在を忘れてしまっていたほど、、、
やがて南棟1階のコワーキングスペースのシェアキッチンのことを考えるときに、眠っていた吊戸棚を呼び起こし、寸法を測ってみると偶然にもレンジフードの高さとほぼ同じ!設置場所の幅の方が吊戸棚の幅よりも短かったため、扉1枚分をカットし、壁に設置。ライトグレーに塗装してあげたらこの馴染みようです。まるで元々そこにあったかのように。捨てられずに晴れて残る運命になったこの素敵な吊戸棚、ぜひ覗いてみて下さい!
その4.渡り廊下の手摺
北棟、南棟はそれぞれ、かつては母屋と離れ、そして便所の3つの建物から成り立っていました。当時、離れの2階へ辿るには母屋の2階から外部の渡り廊下を渡っていたと思われ、北棟の改修前にはその時の名残が残っていました。
元々外部だったところには後の改修でアルミサッシやポリカーボネートの波板が貼られていましたが、今回の改修時には泣く泣くこの手摺を撤去する必要がありました。とは言えどこかで使えないか、という想いだけはあるわけで、やっぱり生け捕りしちゃうわけです。
そこで考えたのが、客室の外部手すりとして活かすこと。傷んでいた箇所は新しく差し替え、古いものはそのまま利用することに。年を経て歴史を刻んだ木材というのは深みと味わいがあり、これは新材ではとても出すことはできません。
どうです?まるで元からそこにあったかのように生き生きとした感じを受けませんか?
このように”生け捕りし、転用”を繰り返したUNKNOWN KYOTOの改修現場では、建物の持つ歴史とその都度対峙したような気持ちになり、常にどうしようどうしようと悩み、でもそれが楽しくもあり。あるとき急に面白いアイデアが浮かび、それを思いつきで大工さんにお願いしちゃうんだから、大工さんも溜まったもんじゃないですよね。そんな無理難題でも、昔のものと今ものとを違和感なく融合させてしまう大工さんの腕には何度も助けられ、おかげさまでとても素晴らしい愛着の湧く施設になりました。
UNKNOWN KYOTOの施設は”図面を描いてただ作った”わけではありません。このように一つ一つに思いを込め、みんなの協力のもとで出来上がっています。ホントはまだまだ伝えきれていないストーリーが沢山あります。建物を注意深く観察し、それらの痕跡を探してみるのもまたUNKNOWN KYOTOの楽しみ方かも知れませんね。